◆800文字
「うちの婆さん、最近推し活っていうのを始めたらしい」
「は? 終活の間違いじゃないの?」
ママが作りすぎた料理を持っていっただけなのに、まさかじいちゃんの家で推し活なんて言葉を聞くとは思わなかった。
「いや、推し活らしい。だけど、ようわからんのよ。サクラはわかるか?」
「ばあちゃんが推してるものなんて想像できないよ! どこに行ってるの?」
私が冷蔵庫にタッパーを入れるのを見届けてから、じいちゃんは答える。
「川下商店街の方に行くとか、話してたかな」
「ならそれ、推し活じゃなくて串カツじゃない? あそこおいしい店あったし」
「さすがにじいちゃんでもそれは聞き間違えんって! 変な宗教や商売に騙されよっても嫌やし、ばあちゃんのこと見てきてーや。ちょうどサクラと入れ違いで出ていったから、まだ間に合うわ」
じいちゃんが子犬のような目でお願いしてくる。私は小さく「わかった」と返事をして、商店街の方へ向かった。
*
早足で歩いていると、すぐにばあちゃんの背中が見えた。
面白半分で尾行してみたら、ばあちゃんは意外なことに串カツ屋を通り過ぎる。この商店街の先、なんかあったかな……と考えていると、ばあちゃんは川下神社の鳥居をくぐってしまった。
――なんで川下神社?
商店街の少し先にある、小さな神社だ。うちの地区は観光客も来るほどの有名な神社があるから、ここに来る人なんてほとんどいない。
痺れを切らした私は、ばあちゃんに声をかけることにした。
「ばあちゃん、なにしてるの?」
ばあちゃんの重たそうに皴がたるむ瞼が、大きく開いた。
「サクラ、なにしてるん?」
「こっちが聞いてるんだって」
ばあちゃんは少しだけ間を置いて答える。
「推し活……よ。みんな大きい神社行くやろ? だから私はここを応援したくてね。どんな小さな神社でも、神様がいるんやから」
ばあちゃんは頬を赤らめる。
その後ろに、若い頃のじいちゃんによく似た宮司がいたのを、私は見逃さなかった。
コメント