◆実話怪談
◆1,000文字
切ってください
友人のNは美容師をしている。Nは、どうしても忘れられないことがあると話した。
「予約も入れずに、急に店に来たんだよ」
来店した女性は、まるで濡烏のようなきれいなロングヘアーだった。その女性・Bさんは初めてくる客だ。
髪のカットに入る前に、客にはカウンセリングをすることになっている。
「どのようにカットしてほしいか希望はありますか?」
Nがそう尋ねると、Bさんは「少しだけ切ってください」と不愛想に答えた。美容師と話したくない客はけっこうな割合でいる。Nは気にせずに施術に入った。女性の髪をヘアクリップであげているとき、Nは気づく。Bさんがエクステをつけていることに。地毛とも違和感なく合っていて、美容師じゃないと気づかないレベルだ。
「エクステつけられていますが、切ってもいいんですか?」
Bさんは無言で頷く。金をかけてつけたエクステを切りたいなんて、ありがちだけど失恋でもしたのだろうか。それ以上は聞かないことにして、カットを終わらせた。
3日後、Bさんはまた予約をせずに来店した。仕上がりが気に入らなかったのかもしれない。Nは「お直しですか?」とBさんに聞くと、開口一番に「髪をもっと切ってください! お金も払います!」と荒々しい語気で伝えてきた。鏡越しにBさんを見ると、額には玉のような汗が浮いていて、顔色も悪い。
「……あの、大丈夫ですか?」
心配して聞くが、Bさんは「いいから切ってください」と答えるだけ。Nは心配しつつもカットをはじめたそうだ。思い切ってミドルヘアーぐらいにするか、とヘアクリップで髪をあげた時、隣の席にいた客のCさんが急に話しかけてきた。Cさんは占い師をしているらしく、オカルトな話が多いので内心Nは苦手に思っていたらしい。
「こんなことを言うの失礼かもしれないけれどごめんなさい。そちらの女性の左側のエクステ、全て外してあげてください」
Nは何を言ってるんだ? と思ったらしい。Cさんを担当していたスタッフも制止しようとしたが、Cさんは続ける。
「その髪、自殺した女性の怨念そのものです」
その言葉を聞いたBさんは驚いていた。
「……やっぱり。エクステをつけてからずっと頭の左側を引っ張られていたんです。何度も何度も首に髪が巻きついて……お願いです。外してください」
Nは言われるがままにエクステを外すことにした。なぜ、Cさんはエクステだとわかったのだろうと疑問に思いながら。
1ヵ月後、Bさんは菓子折りを持って店に来た。まるで、憑き物でも落ちたかのような表情だったそうだ。
Nは話す。霊感が強い人は、人毛のエクステを憑けるのは……やめた方がいいかもしれないね、と。
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